集英社ギャラリー「世界の文学」19 -ラテンアメリカ

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目次

わたしは、わたしの宝物をだれにも見せなかった。所有の いて、地下には、定期刊行物と地図があった。館員の不注意 幸福のほかに、盗まれるという恐怖、それに、本当に無限で につけこんで、「砂の本」を、湿めった棚のひとつにかくし きぐ はないのではないかという危惧があったからだ。このふたった。戸口からどれだけの高さで、どれだけの距離か、わたし ス へ の心配が、年来の人ぎらいを強めることになった。わたしに は注意しないように努めた。 いま、わたしはメ ポは数人の友人しか残っていない。その友人にも会うのをやめ これで少しは気が楽になった。しかし、 た。結局、わたしはその本のとりことなって、ほとんど家かキシコ通りを通るのもいやだ。 ら出なかった。虫眼鏡で、すり切れた背や表紙を調べ、どん な仕掛けもなさそうだということが分った。小さな挿絵が、 原題 EL LIBRO DE ARENA 二千ページもはなれているのをたしかめた。それをアルファ べット順にノートに書きつけていったが、ノートはすぐに一 杯になった。それらは一度も重複することがなかった。夜は、 不眠症の許すわずかの合間に、本を夢みた。 夏が過ぎ去る頃、その本は怪物だと気づいた。それを両眼 で知覚し、爪ともども十本の指で触知しているこのわたしも、 と , つにもなら、なかっ 劣らず怪物じみているのだと考えたが、。 みだ た。それは悪夢の産物、真実を傷つけ、おとしめる淫らな物 体だと感じられた。 わたしは火を考えた。、 たが、無限の本を燃やせば、同じく おそ 無限の火となり、地球を煙で窒息させるのではないかと惧れ 一枚の葉をかくすに最上の場所は森であると、どこかで読 んだのを、わたしは思い出した。退職するまえ、わたしはメ キシコ通りの国立図書館に勤めていて、そこには九十万冊の らせん 本があった。玄関ホールの右手に、螺旋階段が地下に通じて つめ ころ

299 砂の本 なる時点にも存在する。」 「交換というのは、、、 とうだろう」とわたしは言った。「君は、 彼の思考はわたしをいらだたせた。彼にきいてみた。 数ルピーと聖書と引きかえにこの本を手に入れた。わたしは、 「もちろんあなたは信仰をおもちでしような。」 受けとったばかりの恩給の総額と、ゴチック文字版ウイクリ プレスビテリアン 「ええ。長老会派です。良心にやましいところはありません。フ訳聖書を提供しよう。先祖伝来の宝物だ。」 「ゴチックのウイクリフ ! 」と彼はつぶやいた。 悪魔の本と引きかえに、「主の御言葉』 ( ) を与えたからと しって、あの原住民をだましたことにはならないと確信して わたしは寝室へ行き、金と本をもってきた。彼はページを います。」 くり、いかにも愛書家らしい熱心さで扉を調べた。 わたしも彼に、なにも自分を責めることはないとうけ合っ 「きまった」と、彼は一一一口った。 た。そして、こちらを旅行中なのかとたずねた。数日中に故彼が値切らなかったので、わたしはおどろいた。この家に 国へ帰るつもりだ、と彼は答えた。彼がオークニー諸島出の入ってきたときから、彼はその本を売る決心だったと分った スコットランド人だと知ったのはこのときだった。スティー のは、後のまつりになってからだ。札を数えもせすに、彼は ヴンスンとヒュームが好きだから、スコットランドには個人それをしまった。 的愛清を抱いていると、わたしは言った。 われわれは、インドのこと、オークニー諸島のこと、かっ ジャール 「それと、ロビー ーンズのために、でしよう」と彼は訂てそこを治めていたノルウェーの族長たちのことを話した。 化した。 その男が帰ったときは、もう夜になっていた。その後二度と 話をしながら、わたしはその無限の本を調べつづけた。無彼には会わないし、彼の名前も知らない。 関心をよそおいつつきいた。 「砂の本」は、もとウイクリフのあった場所にしまおうと考 「君はこの珍本を大英博物館に提供するつもりでしよう えたが、結局、半端物の「千夜一夜物語』のうしろにかくす ツ」とこしこ。 しいえ、あなたに提供するつもりです」と答え、彼はかな床についたが、眠れなかった。夜明けの三時か四時に、明 りの高額を提一小した。 りをつけた。例のありうべからざる本を取りだし、ページを わたしは、本心から、その金額ではとても手が届かないと くった。ある。ヘージに、ひとつの面が刻みこまれているのを 答えたが、なおも考えこんでいた。数分後、計画を思いつい みつけた。隅には、もういくつか忘れたが、九乗した数がう ってあった。

に「ポンべイ」とあった。 んでした。察するところ、『本の中の本』 ( しを一種の護符 「十九世紀だろうな」とわたしは言った。 だと思っていたんでしような。彼は最下級のカーストでした。 「さあ、どうしても分らないんですよ」という返事だった。 その男の影を踏んだだけでも、汚れることまちがいなしとい ス ハわたしは何気なくその本を開いた。知らない文字だった。 うやつなんです。彼が = = ロうには、この本は『砂の本』という のです。砂と同じくその本にも、はじめもなければ終りもな ポ粗末な印字の、古びたページは、聖書によく見られるように というわけです。」 二冽にされていた。テクストはぎっしりつまっており、 一節ごとに区切られているべージの上の隅には、アラビャ数彼は、最初のページを探してごらんなさいと言った。 字がうってあった。偶数ベージに ( たとえば ) 四〇五一四と左手を本の表紙の上にのせ、親指を目次につけるように差 いう数字があるとすると、次のページは九九九になっているし挟んで、ばっと開いた。全く無益だった。何度やっても、 のが、わたしの注意を弓した。。 ー、 ' ヘージをめくってみる。裏面表紙と指のあいだには、何枚ものページがはさまってしまう。 には、八桁の数字がならぶ番号がうたれていた。よく辞書にまるで、本からページがどんどん湧き出てくるようだ。 「では、最後のページを見つけて下さい。」 使われるような小さな挿絵があった。子供がかいたような、 いカの・ やはりだめだった。わたしは、自分のものとも思われぬ声 まずいペンがきの錨だった。 で、こう言いよどむのがやっとだった。 見知らぬ男がこう言ったのはその時だ。 「それをよくごらんなさい 「こんなことがあるはずはない。」 もう二度と見られませんよ。」 相変らず低い声で、聖書の売人は言った。 声にはでないが、 その断言の仕方には一種の脅迫があった。 「あるはずがない、 しかしあるのです。この本のページは、 その場所をよく心にとめて、わたしは本を閉じた。すぐさま、 まさしく無限です。どのページも最初ではなく、また、最後 また本を開いた。一枚一枚、あの錨の絵を探したが、だめだ つつ、つ・はい でもない。なぜこんなでたらめの数字がうたれているのか分 った。狼狽をかくすためにわたしは言った。 らない。多分、無限の連続の終極は、 いかなる数でもありう 「これはインド語訳の聖書ですな、ちがいますか ? 」 ることを、吾らせるためなのでしよう。」 「ちがいます」と彼は答えた。 それから、あたかも、い中の考えごとを口にのばせるように、 それから、秘密を打ち明けるように声をおとした。 「わたしは、平原の村で、数ルピーと一冊の聖書と引きかえ「もし空間が無限であるなら、われわれは、空間のいかなる に、それを手に入れたのです。持ち主は、読み方を知りませ地点にも存在する。もし時間が無限であるなら、時間のいか けた